対談・【VII戦車】

今回のお題は「大アルカナを自由に深掘り・戦車」です。

中川）ぱらっと開いて・・・【VII戦車】です。

永坂）先月この欄で【II女教皇】三日月についてあれこれ語りましたので、その延長上で、最初に【VII戦車】の若者の両肩についている三日月を取り上げたいです。鎧の一部なのでしょうが、このような形にのせてあるのはどういう意図があるとお考えですか？

中川）ええとね、三日月は三日月なんだけど、仮面なんだよね。顔がついているでしょ？

 

永坂）仮面？ああ、はいはい、本当だ！全然気が付きませんでした。左側のが怒った表情で、右側のは笑っています。狛犬の阿と吽でしょうか。びっくりです。この顔の青さは意味がある？

中川）なんだろうなあ。まあ、タロットにおいて青は平和を表す色だから、そう捉えていいんじゃないかな。
幕も含め、このカードには青はたくさん描かれていて、空はやはり穏やかさを表す黄色。顔つきを見てもわかるように、この若者は戦いに行くのではありません。背後に城や街並みが描かれているでしょ。若者は親元を離れて、自分の城を建てに行くと僕は解釈しています。

 

永坂）地方出身のぼっちゃんがこれから都会の大学に進学する、という状況と似ていそうです。

中川）そう、そんな感じ（笑）。大学へ通ってバイトも経験して、一本立ちを目指しているっていうかな。だからまだ成功者ではない。成功を夢見て前進して行く若者です。

 

永坂）忘れないうちに、三日月の解釈に戻らせてください。なぜ仮面を持つ必要がある？

中川）仮面は、これから社会に出る時の道具と言うかな。いろいろ使い分けて世渡りをしなさい、そうでないと行き詰まるよと。

 

永坂）高貴な出の若者だから、世間知らず苦労知らずでしょうね。無邪気なり一本調子なりに構えていては、成功者への道は遠い。世渡りのためには多様な顔つきや言動が不可欠なのでしょう。

中川）風貌に合わせるように、身なりがとても凝っていますね。鎧も兜も装飾でいっぱいで、下半身には象形文字がぎっしり書き込まれています。手にしているのはワンド（指揮棒）で、武器ではありません。戦いに行くのではないから、武器は要らない。
スフィンクスの間に見える赤いのは独楽。独楽は遊びのためだけではなく、中世では占いにも使われていました。どっちに倒れるかで吉凶を示したそうです。

 

永坂）スフィンクスも高貴で温和な感じの顔つきですね。この二頭がお付きとして仕えるとの条件で、親は安心して若者を外に出したのかも。

中川）スフィンクスが若者の脱出を助けた、と僕は考えます。勢いよく街を抜け出て、今は疲れて座っている（笑）、もしこの二頭の手助けがなかったら若者は親元から離れられなかった・・・・といろいろ想像するけれど、実はスフィンクスはこの若者にしか見えない、感じられない、という内なる存在なのかも。

 

永坂）深〜い。もともと架空の動物と言ってしまえばそれだけですけど、それでも深い意味が隠されているのかも・・・・。でもって、この白黒のスフィンクスは陰と陽を暗示すると考えて良いのですよね？

中川）そうね。思考のバランスを取るということ。真っ直ぐ走って行くためには、白と黒のバランスが必要なんだと。
でもスフィンクスの役割はここで終わり。これから若者は石の乗り物から降りて、スフィンクスと別れて、一人で歩んで行くんです。
背後に描かれている水は、ルビコン川とも城の堀とも捉えられています。いずれにしろ、もう若者は後戻りという選択肢はない。【カップナイト】の川を渡るという行為は「次なるステージに突入」と解釈しますが、ここも同じ。

永坂）ベルトが傾いているのは、まだ立ち居振る舞いがぎくしゃくとしているからと言われています。顔つき身体付きだけでなく、このベルトの傾きは、この若者の良い意味での「青臭さ」や「スレていなさ」を醸し出しているのでしょうね。
知識や経験において、私は【VII戦車】を【ペイジ】より上、【ナイト】より下、と捉えています。【ペイジ】は子どもでしかないし、【ナイト】は実戦体験の有無はわからないとしても、馬の乗り方くらいはマスターしている。

中川）そうだね。コートカードで例えると、【VII戦車】は【ペイジ】と【ナイト】の中間地点だな。

 

永坂）占いにおいて【VII戦車】が出たら、「前進してください」と告げるだけではなく、「まだスキルはありません、足を進めながら身につけて行ってください」と付け加えるべき。

中川）【VII戦車】はこれからの成長を示すカードです。無計画ではないけれど、スキルはまだ無い。内面の豊かさも学んだ賢さも神秘性も無い。すべてこれからです。まだゼロなんだけど、様々身につけて成長して行く過程を楽しめば良いのです。

2024年5月21日　清澄白河コピスクラスにて