「大アルカナのカード：【VIII　力】」

インタビュアー）まずは意味合いから伺います。一般的な検索では、力量の大きさ、強固な意志、不屈の実行力、理性、知恵、知性、勇気、冷静、といった解説が出てきます。
ライダーウェイト版は勇気、寛大、名誉で、それを元に先生は、欲望を抑えながら前に進む、前向きな気持ちで諦めず忍耐をして切り開く、欲望は封じ込むではなくなだめる、対立はない、とおっしゃいます。

中川)僕個人としては、理性とか知性は感じません。それらは【II女教皇】またはソードのコートカードが示す要素です。【VIII力】は剛毅がメインテーマで、それは硬い意志を持ち続けること、くじけないことです。
絵柄が示す通りで、野生のライオンを飼いならすというイメージを描くとわかりやすいでしょう。獰猛な野生動物を飼いならすには時間がかかるし、途中で怪我をすることもある。根気、このライオンと仲良くなるという意志、怪我を負ったとしてもくじけない心、といった強さが求められます。
対立がないのは、目的が飼いならすことであり、抑えこむのではないから。

インタビュアー）尻尾が後脚の間に入っているは服従の印だそうです。今の説明だと、服従という言葉は必ずしもあてはまらないのでは？

中川)その点は少々曖昧なところです。占いでこのカードを読み解く際、質問者が女性ではなくライオンにあたるとすると、服従と捉える場合があります。
人間関係のトラブルを例に挙げてみます。結論が【II女教皇】〔静観して良い結果を待つ〕で鍵が【VIII力】だったら、アドバイスは「トラブルの相手に対し、このライオンのように軟らかく接してください」で、これは服従に近いかな。

インタビュアー）人間と動物が描かれているカードだと、質問者は自分を人間に当てはめがちですが、ライオンと捉える選択肢も考えなければいけないのですね。
ところで、この女性は普通の人間と捉えて良いのでしょうか？

中川)頭の上にインフィニティをつけている彼女は【I魔術師】同様に、人間が到達出来る最高の境地いるという、特別な人間です。【I魔術師】はワンドを持っているけれど、彼女はライオンに素手で対応している。ちょっとの隙でやっつけられてしまうという危険を承知で行動しているという、剛毅な女性です。

インタビュアー）【VIII力】の逆位置の意味を挙げます。弱気、無謀、諦め、無気力、自信喪失、自信過剰、が検索結果です。先生の説明は、強固な意志を諦めてしまう、心の弱さに負ける、頑固さが過ぎて制御を失う。

中川)ライオンが暴れて手がつけられないというイメージです。ただし占いで時系列、例えば未来に出ても、結論が大吉を示すものであれば、それほど気にしなくて良いです。「一波乱は起きる」「心が少々乱れる」程度でおさまります。
結論が逆位置で鍵のカードが危険を暗示するものであれば、「計画は壊れる」ですが、鍵が良いものであれば、「がんがん進んで結果を出す」です。
ただし、逆位置はあくまでも逆位置です。たとえ占いが吉との結果が得られても、結論が【VIII力】逆位置なら、自分の望みとは少々異なる結果になるとの理解が必要です。望み通りが得られるのなら、カードは正位置で出るはずです。

インタビュアー）このカードが持つ特異性とはどのようなものでしょう？

中川)個人的な意見ですけれど、仏教的な感性を感じます。ウェイトさん（アーサー・エドワード・ウェイト：ライダー・ウェイト版の製作者）もパメラさん（パメラ・コールマン・スミス：イラストレーター）も、仏教に興味を持っていたと思っています。二人とも19世紀の人たちだから、知識は得られたでしょう。仏教の地へ乗り込んで行った僧侶や研究者、迷い込んだ商人などが既にいましたから、見聞録や研究書を手にすることは出来たはずです。
【VIII力】の女性とライオンは花の鎖で繋がれていて、表裏一体の存在です。自分の中にある荒々しいものを殺す必要はない。その荒々しいものを、西洋的解釈では欲望とか本能と捉えるけれど、僕は仏教的に煩悩と受け止めます。
煩悩と向き合いながら、どう日常を穏やかに暮らすかを問い、必ずやり遂げるという意志を持ち続ける。この女性は熱心な在家の信者なんだな（笑）。
在家だから肉食他いろいろな楽しみはアリで、過度なストイックさとは無縁といったところです。ストイックさは【I魔術師】【II女教皇】【IX隠者】【XII吊るし人】のものです。 後者二人は特に禁欲的で、いわば出家の信者（笑）。
もともと大アルカナのカードは宗教性を含むから、宗教っぽさが見え隠れするのは当然ですが、宗教性とはキリスト教を指すとは限らないと僕は考えています。

2020年11月25日　秋葉原マクトゥーブにて