タロットを描いたパメラさんの話
インタビュアー)今回のお題は「パメラ・コールマン・スミスさん」です。
先生が天才と呼び尊敬してやまない、パメラ・コールマン・スミスさんを取り上げます。ライダーウェイト版タロットカードのイラストを描いた、アメリカ人の画家です。
パメラさんは1878年、日本の数え方で言うと明治11年の生まれ。パリ万博が開催された年です。ロンドンで生まれて、15才でニューヨークの名門アートスクールに入学、その後活動を始めたということです。
中川)共通の知り合いを介して、パメラさんはウェイトさん(ライダーウェイト版タロットの製作者)と出会い、新しいタロットカードのイラストを頼まれました。ウェイト氏が細かく指示を出したので、大アルカナは要望に沿って描いた、小アルカナは自分のアイディアに基づいて自由に描いた、との記載が残っています。
ライダーウェイト版の強みは、細かく描き込まれたシンボル(天秤、城、冠、川、旗、子ども、馬といった形象)です。中でも、パメラさんが自由に描いたと言われる小アルカナのカードには、突出したシンボルが無数あります。
前にも幾度も言っているけれど、小アルカナは日常を示すから、小アルカナを理解しないことにはタロットは読み解けない。
大アルカナが示す志や魂の持ちようはもちろん大事なんだけど、実生活では形として現れづらいわけです。小アルカナが示すのは日常です。だからしっかり読み解かなければいけない。パメラさんが描き込んだシンボルのおかげで、わかりやすく理解できるようになったのです。
インタビュアー)大と小と名付けられていると、大の方が尊いような印象を抱いてしまいがちです。イメージで言えば、大アルカナは将校で小アルカナは歩兵。でもそれは正しくない?
中川)そのように捉えたくなるのはわかるけど、それは違うんじゃないかな。生き方を示す、日常の詳細を示す、の二つの間に優劣は存在しないと僕は考えます。
インタビュアー)相談者が占いに頼る際、どう生きるべきかと尋ねる人は稀で、一般的には、目の前の問題課題、つまり日常の出来事をどうするかと尋ねますものね。
中川)マルセイユ版タロットの絵柄は「荘厳かつシンプルで美しい」という印象です。芸術性は高いけれど、意味合いの理解はどうかというと、わかりづらいと言える。後年、パメラさんはマルセイユ版が持つ宗教っぽさは控え、普通の空気感の人間を描き、シンボルいっぱいの絵柄にしました。それ以降、彼女ほど独創的でわかりやすいイラストを発表した画家はいません。
インタビュアー)「パメラさんすごいぞ」の具体例をあげてください。
中川)小アルカナのソード3とワンド8の二枚をあげます。
他の76枚は人間なり生き物なり天使なりが描かれているのに、この二枚にはどれも描かれていない。彼女は描かなかった。
ソード3は正位置逆位置とも痛みや挫折、中断を表しますが、生き物が描かれていないとは、困難は誰かのせいではなくて、人智を超えた何かの働きだと意味付けている。ワンド8逆位置も同じです。
ワンド8の正位置は「がんがん行こう」ですが、これも人智を超えた何かが働いてそうなっていると示しています。
「当人も理由がわからないけれどうまく進む、またはうまく進まない」をこのように表現したのは、すごいことです。
インタビュアー)人がいないことで、人が関わっていないと表す。深い。
他には?
中川)ペンタクル3とカップ2とソード3が、人間関係を如実に示していることかな。
ペンタクル3は若い大工が教会を建てている絵です。右の二人は協力者。「一人では達成できない計画でも、協力者を得れば可能になる」と示しています。
力関係においてこの三人は不均等だけど、カップ2の二人は対等。誰かを愛し、その誰かに愛される。力関係が対等で結びつくのは、人間関係の最高の形。
そしてソード3は、恵まれた人間関係の中でも、誰のせいでもなくても悲しみは起こる、それが世の中なのだと示しています。
インタビュアー)駆け出しの頃、パメラさんは演劇の舞台のデザインや衣装のデザインも手がけていたそうです。ライダーウェイト版は、衣装の描き方も見事ですよね。
中川)舞台衣装を手がけた経験は、タロットの絵柄に大いに役立ったでしょう。占いでシンボルを読み解く時に、僕は服装が醸し出す空気感にも目を向けます。
最近になって、ペンタクル6とカップ9は同じ人物ではないかと考え始めました。同じ服を着ているように見えるでしょ。ジャケットを脱いだ姿がカップ9。この二枚には、同じ男のA面とB面が描かれているんではないかと思います。「良いことをした(ペンタクル6が示す施し)後は、美味い酒が飲める(カップ9)!」。
インタビュアー)推測は推測の域を超えようがありませんが、断言して良さそうなのは、ライダーウェイト版のイラストは究極の完成形であろうということです。手を加えようがないんじゃないかと。
中川)足すことも引くことも余地がないでしょう。模倣は出来てもそれ以上には決してならない。
インタビュアー)パメラさんは独身を通し、1951年にイギリスで亡くなりました。晩年は制作をやめて、慎ましやかに暮らしたそうです。残っていた作品は死後借金を返すために売り飛ばされ、華やかとは無縁の最期でした。
中川)タロットの原画も他の作品も、わずかしか残っていないのはつくづく残念です。彼女についての文献はいくつかあるけれど、日本国内ではほぼ皆無。もっと評価されていいはずなのに。
【Smith-Waite Tarot Deckと表記されています。ケースのイラストもパメラさんです】
海外では、特に研究者の間では、ライダーウェイト版をウエイト・スミス版とも呼ぶらしいです。日本でもその名前を広めたいと僕は思います。パメラさんの独創性なくしてライダーウェイト版の成功はなかった。そしてこの版のわかりやすさのおかげで、これからもずっと占い師は悩める人々を救い続けられるのですから。
2023年8月22日 清澄白河コピスクラスにて