対談・ワンドキング

今回のお題は「ワンドキング」です。
中川)【ワンドキング】、落ち着いた雰囲気の良いカードですね。キング4枚の中で、ワンドのは一番年上だと思っています。
永坂)え、意外です。なぜですか?
中川)ウェイトさん(ライダーウェイト版タロット製作者)の解説で、人を導くと書いてある。人生の経験値が高いんだ。
企業人に例えると、【カップキング】は社員になりたてで、【ソードキング】はいくらかの決定権を持つまでにはなった中間管理職、【ペンタクルキング】はしっかり会社を切り回す経営者、それでもって【ワンドキング】は頂点を経験した後の相談役という感じかな。
永坂)考えもつきませんでした。先生ならでわの発想ですね。私は【ワンドキング】が現役CEOで、【ペンタクルキング】が相談役という印象ですが、それはざっくりどっしりとしたローブのせいでそう見えたのかも。正解が見つかる話ではないから、何とも言えませんね。
【ワンドキング】はというと、こちらもまとっているローブを始め全体の衣装が素敵です。胸の辺りに緑色を差し入れたり、靴がその緑色と同じ色だったり、かなりお洒落。後ろのパネルの装飾も見事です。これって、座っている椅子の背もたれですね。左足の手前には、トカゲが描かれています。
中川)これはトカゲじゃなくてサラマンダー。中世では、火を司る精霊とか妖精と信じられていた動物です。背もたれにもサラマンダーは描かれています。この丸っこいやつ二つ。丸まっていない二つはライオン。占いでワンドが示す情熱とか野心とかを、ここで絵にして見せているんだな。
これはコートカード(このコートは宮廷を意味する)だから、占いで出た時の解釈はいくつもあって結構大変です。まず占いの内容に関係する人物や質問者本人と読む。成人男性と限定しないで、女性も含むと考える。人物ではなく、事態の兆候としても読む。幅広く読めると同時に、絞り込むのに難航することがある。占い師の腕が試されるところ。
永坂)私も占いでコートカードが出ると、どう当てはめるか、頭の中をフル回転させます。当てはめ損なうと、収集がつかなくなること確実ですから。
中川)占いの基本に戻ってみよう。占いには大きく分けて三種類あります。手相や人相といった、形を見る相術。生年月日を見る九星気学。これらに関しては、100人の占い師に占わせると、全員同じ答えが返ってくるはず。
けれど易やタロットといった卜占(ぼくせん)は、そうではない。これを含めた三種類には一長一短があって、どれが最も優れているとは言わない方がいい。卜占は一発勝負で吉凶がわかるというメリットがあって、デメリットはというと、読む人の技術が結果を左右する。コートカードはその典型例だね。
永坂)コートカードは大アルカナより難しい、と先生は常々おっしゃいますよね。正位置逆位置で吉凶は即座に教えてくれますが、誰に何に当てはめるか察しがつくまでえらいこっちゃです。大汗ものです。
中川)ピラミッドの話をしましょう。【ワンド】のコートカードを並べるとわかるように、他の3枚には背景にピラミッドが描かれているのに、キングだけ無い。これは「このキングこそがピラミッドである」と捉えます。さっき年長者と言ったけど、この辺りも考えが一致しているね。ピラミッドは墓でしょ。王として完成形と捉える。
永坂)あー、そういうことなんだ。ライダーウェイト版タロットが出版された時代、白黒写真はすでに普及していたから、ピラミッドの姿は世間にまあまあ知られていたでしょうね。けれど遠い異文化の巨大建造物だから、憧れよりも恐れの方が優っていたと考えて妥当でしょう。
中川)滅多に辿り着けない最果ての地に建つ不思議な形をしたものだから、そうだろうな。畏れ多いとも考えられる。
永坂)印象が強いもののもう一点が、先ほど挙げた椅子の背もたれの模様ではないでしょうか。【ワンドクイーン】のにも、似たような柄がびっちり描き込まれていますね。
今いきなりひらめいたんですけど、これって背中の彫り物ってなもの?
中川)うははははは(爆笑)。
永坂)飛躍し過ぎですか?
中川)いや、良いと思う。現役を引退した組長と姐さんと考えても良いかもしれない(笑)!
永坂)昭和の映画の影響を受け過ぎですかね。でもサラマンダーもライオンも威嚇だから、背もたれの装飾は背中の唐獅子牡丹の代わりではないか、と想像しちゃいました。
中川)「俺には私には力があるんだぞ、本物だぞ」という見せつけだものね。力とは権力であり実行力であり。わかるわかる。
永坂)力を誇示するというところで、話を衣装に戻してしまうんですけど、【ワンドキング】の服には色が散りばめられていますよね。胸元にわざわざ緑色を持ってくるといった、人目を惹きつけるように描かれています。自分の力を明解に誇示して良い、誇示すべき、といったキャラといった一方で、手にしているのは棒だから、人を傷つけるにしてもさほどのことにはならない。今しがた威嚇の刺青といった突飛な想像をしましたが、実は暴力的な要素は小さいのでは。
中川)そう、棒だからね。【ワンドキング】が勝ち得た力とか実行力とは、競争の中で得たものであって、血を流すような命を危険に晒すような行為とは、ほど遠いはず。フェアな競争で得た成果だから、大っぴらに誇示してかまわないんだ。
さっきの4枚に戻るとね、【ペイジ】は天からのお告げを聞く。それで【ナイト】になった頃に旅に出る。それを【クイーン】は静かに見守る。過酷な砂漠の旅から帰ってきた【ナイト】は【キング】になって実行力を行使して競争に勝つ。
隙がなさそうでしょ、いつも100点満点の勝ち方をするだろうな、王様だもの。
2025年6月 横浜マクトゥーブにて